(大日光 No.74,pp.50-57,2004,日光東照宮) | |||
日光杉並木の樹勢回復事業 | |||
野澤 彰夫(栃木県林業センター) | |||
一、はじめに 日光杉並木は、国の特別史跡と特別天然記念物に二重に指定され、世界一長い並木としてギネスブックにも登録されており、全国的にも世界的にも大変貴重な文化財と言えます。また、細長い並木敷ではありますが多様な生態系を形成しており、大変貴重な自然でもあります。我々はこの貴重な財産を守り、後世に引き継いでいかなければなりません。 しかし、これまでは人間の生活関連事業が優先されたため、並木内の道路改良や用水路・宅地開発等によって、並木杉の根系は著しく傷つけられ、切断されたりしてきましたが、杉の生育環境はほとんど顧みられることがありませんでした。杉並木の生育環境は益々悪化する一方であり、樹勢の衰退も進行しており、本数も年々減少しています。杉並木は文化財といいましても生き物であるため、これを保護して永く残していくためには、まず第一に、衰退している杉に対して直接樹勢回復を図ることが必要であり、その保護対策は急を要するものです。 一方、日光杉並木の保護対策として、昭和五十二年三月及び平成四年三月に「特別史跡・特別天然記念物日光杉並木街道保存管理計画」が策定され、これらの計画に沿ってこれまで保護対策が推進され、バイパスの整備・建設や並木敷両側用地の公有地化等の保護施策が順次進められています。 さらに、平成八年十月には(財)日光杉並木保護財団が設立されるとともに、平成八年十一月からは「日光杉並木オーナー制度」が開始され、保護対策の着実な進展が期待されるところとなりました。 しかし、並木杉の衰退が進行しているにもかかわらず、杉自体の樹勢回復策はほとんど手つかずに近い状態でしたので、これを検討・実施するため、平成九年八月に「特別史跡・特別天然記念物日光杉並木街道保護方策検討委員会」(委員長:佐藤大七郎氏)が設置されました。また、この委員会の具体的課題を検討するため平成九年九月に「日光杉並木樹勢回復事業ワーキンググループ」(座長:谷本丈夫氏)を設置し、検証しながら協議が進められました。この後に述べます新たな樹勢回復工法等は、主にこのワーキンググループの中で樹勢回復のモデル事業として検討・報告して実施されたものです。 二、並木杉の樹勢衰退とその原因 一九六一年(昭和三十六年)に日光東照宮が作成した日光杉並木街道杉並木台帳には、一万六千四百七十九本が登録されていますが、現在の残存本数は一万三千本弱となっており、毎年枯損木が発生している状況です。 杉並木を少し離れたところから見ますと、梢端が枯れ込んだもの(写真一)が目に付き、並木杉の衰退がはっきりと現れています。並木の中には国道が通っており、一部バイパスが出来ているところでも並木の中は生活道として使われているため車道として残されています。並木のすぐ外側には岡道といわれる生活道があり、両側を道路で挟まれている並木部分(写真二)も多く、あちこちに並木を横断している道路があります。また、並木に沿って水路が設けられ、根元まで削られたりコンクリートの水路に迫られているところや、住宅・工場などに迫られているところも多くみられます。 並木の中に入って近くから見ますと、並木内の道路が掘り下げられ根を切断されて、石積がされたところ(写真三)もたくさんあります。また、並木の幹は過密になって隣同士が近接したもの(写真四)も目に付きます。幹には傷や隣接木の枯死からくる大小の腐朽や、落雷によると思われる縦筋の枯れ込みもあちこちに見られ、スギカミキリの被害もかなり見られます。並木の脇で上を見上げますと、過密なため枝が一方(並木の外向き)に片寄って伸びている(写真五)のに気が付きます。また、並木のすぐ外側が植林されているところでは、その樹木の成長によって、並木杉の下枝がだんだん高く枯れ上がってきています。並木内の道路の法面は、杉の根元まで削られて、根が切断・露出・乾燥し(写真六)、太根が横に伸びている(写真七)のも見られます。 何気なく車で通りすぎると気が付きませんが、並木杉をよく見ますと枝にも幹にも根にも、全ての部分に衰退の進行が見られることに気が付きます。 以上のように、樹勢衰退の原因となるものはいろいろとあり、地上部・地下部とも生育条件が不良となっていますが、これらのうち特に地下部、根系の健全な生育領域については、著しく狭められているのが現状であり、このことが樹勢衰退の最も大きな原因となっているものと考えられます。 一方、岡道や練石積の玉石を除去した後、土壌が流亡した法面等に客土をしますと、目を見張るほど根が再生・伸長するのが観察されており、老齢の並木杉でも十分回復力が期待できると考えられます。 |
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![]() 写真一 衰弱症状を示す梢端枯れ |
![]() 写真三 掘り下げられた街道敷 |
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![]() ![]() ![]() 写真二 国道や岡道が迫る杉並木 写真四 過密状態の杉並木 写真五 過密で片枝状態の杉 |
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![]() 写真六 根を切られた道路法面 |
![]() 写真七 横に伸びた太根 |
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三、これまで実施された樹勢回復事業 日光杉並木の保護対策として、以前は樹勢回復対策がほとんど実施されてきませんでした。そこで、平成八年度から杉自体の樹勢回復事業を実施することとなり、県林務部造林課と県今市林務事務所により、樹勢回復手法について検討が行われました。 前項で述べましたとおり、根系の生育領域が制限され、狭められていることが杉並木の樹勢衰退に大きく影響しているものと考えられます。そのため、樹勢回復を図るには根系領域の回復・拡大が最も緊急を要するものと考えられました。そこで、事業としては健全な根系域の拡大と土壌改良を実施することになりました。 その方法としましては、並木内の道路の改良・拡張により道路敷が掘り下げられ、道路脇の法面として杉並木の根元近くまで削られて土壌が流亡している部分に、間伐材(丸棒加工材)で木柵を作り、木柵の並木側に客土をして根系の生育領域を拡大する(写真八)ことです。客土する土壌には、並木周辺の表土が黒ボクであるため、同じ黒ボクである畑土とバーク堆肥が用いられ、試験的にその配合比を変えて実施されました。この方法での樹勢回復事業は、県今市林務事務所により、平成八年度から十年度にかけて、今市市瀬川地区で施工延長百七十二メートルが実施されました。 さらに、平成九年度には日光杉並木保護財団(県林務部造林課が技術協力)により、木柵の高さを六十または八十センチメートルに上げて、延長三百二十メートルの木柵・客土工が、同じく今市市瀬川地区で施工されました(写真九)。ここでも、改良土壌として畑土に対してバーク堆肥の割合を変えて、また、木炭粒の混入についても試験的に実施されました。その外、直径三十センチメートル程度の穴を掘って土壌を入れ替える土壌改良や、外科手術による治療も一部実施されました。 木柵工と客土による樹勢回復事業は、平成十年度以降も大雨で土壌が流亡している箇所等について、日光杉並木保護財団及び県日光土木事務所によって継続して実施されています。 なお、これらの施工箇所では生長期の後に試掘され、細根が多数発生・伸長しているのが確認されています。 |
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![]() 写真八 木柵と客土(H.8年度) |
![]() 写真九 木柵と客土(H.9年度) |
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四、新たな樹勢回復工法の検討 1 旧街道への復元と道路機能の両立 木柵工と客土による工法は根系生育領域の拡大量(客土量)が限られているため、樹勢回復の効果はわずかしか期待できません。現段階で並木杉の樹勢回復を第一として対策を考えますと、根系生育領域を最大限に確保するためには、掘り下げて作設された道路の不透水層を掘り上げ、改良土壌で埋め戻し、車両等の通行を禁止するのが最も望ましいと考えられます。この方法は、江戸期の旧街道の道形に近い形に復元することになり、史跡としての文化財の価値をも高めることになると考えられます。 しかし、現在バイパスが出来ており一般車両が通らない区間であっても、生活道路等として利用されているため、車両を全面通行止めにして歩道化することは現実的ではなく、不可能と思われます。また、並木杉が枯損した場合、これを伐採・処分するためには、管理道として大型クレーン車の通行と作業スペースを確保できるだけの、最低限の道路機能は存続させなければなりません。このため、根系生育領域の最大限の拡大と必要最小限の道路機能を両立させる方法について検討を行いました。 2 中空コンクリートブロック工法 種々検討しました結果、路床の支持体として空隙率の高い中空コンクリートブロック既製品(商品名:ポカラ)を利用することにより、経済性・施工性が比較的良好でありながら、支持強度・根系生育領域の確保とも十分な性能が得られると考えられました。 杉並木内の道路面が掘り下げられて、杉の根系が切断され、根系領域が狭められている箇所において、根系領域を最大限に確保しながら、必要最小限の道路機能を確保するため、上層路盤の支持体として、最小限のコンクリート躯体で最大限の強度を発揮させ、根系領域を拡大・改良するのが目的です。樹勢回復のための根系領域としては、吸収根の生育領域として、深さ一メートル程度確保されればほぼ十分と考えられますので、中空コンクリートブロック(ポカラ:一辺が百二十センチメートルの立方体のコンクリートを、三方から直径九十五センチメートルの円柱でくり抜いた形状をしています)の利用が適していると考えられます。 基本設計としましては、不透水層である舗装と側溝を破砕除去し、路盤の下層支持体として中空コンクリートブロックを並べて、その上にコンクリート床版を置き、床版上に路盤を作ります。このブロックは安全率を見ても、設計耐力で平米当たり十トン以上の強度を持ち、この上にコンクリート床版を設置することにより、十分な路面の支持強度が得られます。コンクリート床版は透水性・通気性を少しでも確保するために通水孔をあけたものを使用します。路盤はできるだけ透水性・通気性の良いものとして敷砂利が望ましいのですが、表層を舗装しなければならない場合には透水性舗装とします。側溝も素掘りの土側溝が望ましいのですが、コンクリート等の側溝でなければならない場合には透水性のものとします。 3 客土に用いる土壌改良用土 樹木の土壌改良に用いる用土には種々の性質が求められますが、中空ブロック内外の根系域として客土する土壌は、発根促進効果・長期間の土壌改良効果・土壌病害の回避等が、特に重要と考えられます。掘削された道路敷を埋め戻す幅は、道路法面を含めると十メートル程度に達し、片側から根が伸長する領域でも長さ数メートルとなります。そのため、効果が長期間持続することが要求されます。 これらのことについて検討しました結果、土壌改良用土の配合は、体積比で牛糞堆肥(スーパーコン・グリーン:塩野谷農協で製造)十%、杉皮土壌改良材(クリプトモス:今市木材開発協同組合及び粟野町森林組合で製造)十%、粒状木炭(栃木県内産)五%、黒ボク土(畑土:夾雑物・病原菌の少ない地場黒土)七十五%にすることとしました。なお、使用する配合用土は、こごりが残らないよう事前に十分混合するように注意しました。 4 杉並木街道における道路下の根系 新工法施工地における施工方法の細部を検討するため、従来の路盤を横断方向に掘削し、路床の構造や道路下根系の状況等を調査しました。まず、舗装及びコンクリート側溝を二メートル程度の幅でブレーカー等で破砕し、舗装部をバックホーで除去した後、手掘りにより出来るだけ根に傷を付けないように注意しながら、幅及び深さが約一メートルの調査溝を掘って、三ヵ所の調査を行いました。 その結果、道路構造部分(砕石層・砂利層)には根系は認められませんでした。しかし、その下の自然土層である今市軽石層には、非常に硬い層であるにもかかわらず、量としては少ないが、二ヵ所で道路中央部まで根系の分布が認められました。その下のローム層では、三ヵ所とも道路中央部まで根系の分布が少しながら認められました。特に路面の掘り下げが少ない箇所には、直径十及び十一センチメートルの太い根が認められました。また、掘り下げ量の大きな箇所では根系が非常にわずかでした。 今市軽石層及びローム層には、枯死している根系もありました。また、太い根をよく観察しますと、部分的に枯れ込んでいるものが多く、螺旋の溝状に枯れ込んだところに新たな根が伸長しているものもありました。ある程度の太さがある根の表面は皆ごつごつしており、辛うじて生きている状態でした。 五、日光杉並木の樹勢回復事業への適用 中空コンクリートブロック工法による樹勢回復事業は、平成十年度から十二年度の三ヵ年にかけて、日光杉並木保護財団により、今市市瀬川地区において、すりつけ部を含む総延長で二百五十五メートルが施工されました。施工箇所は、並木内側の道路敷確保のため掘り下げられて、根系生育領域が犠牲になっております杉並木(写真十)で、現在すぐ脇を国道が通っている所です。 工事の概略を説明しますと、まず道路の不透水層である舗装と側溝をブレーカー及びバックホーで並木杉の根等を傷つけないように注意しながら破砕・除去(写真十一)し、砂基礎を固め、ポカラを敷設(写真十二)します。 前項の根系調査結果から、道路下には健全とはいえませんが並木杉の根系が入り込んでいることが判明しており、並木杉は文化財なのでわずかな根も切断してはいけないため、自然土層が浅い箇所では標準ポカラを敷設することが出来ません。そこで、ポカラ敷設全区間の起点と終点のすりつけ部分については杉の根を切らずに傾斜をなめらかにするため、ポカラの高さを低くするよう一辺の長さを半分にした特注の六十センチメートル角のポカラを使用します。標準型一個の部分に小型ポカラ四個を合わせて敷設(写真十三)し、高さを半分にしてなだらかにするように配置します。 次に、コンクリート床版の長さ分だけ、調製した改良土壌をポカラの内側と周囲に詰め込み(写真十四)、軽く締め固めてからコンクリート床版を設置し、土壌詰め込みと床版設置を交互に行いながら前進します。そして、路面の両側にも客土を盛り、床版の上の路盤には砕石を敷き、表層を透水性舗装で仕上げ、土側溝と木製車止めを作設しまして(写真十五)完成となります。 また、工事が完了しますとポカラの設置によって拡大した根の生育領域を観察することが出来ませんので、ポカラの四側面に透明硬質塩ビ板を当て、上部にマンホールを設置し、内部へ入って観察できるような観察孔を四ヵ所設けました。 工事完成時には、掘り下げられて低い位置にあった路面(写真十)が埋め戻されて、並木敷の高さよりわずかに低い位置となり、最終的になだらかになった(写真十五)ため、工事施工地とは感じられずに以前からその状態であったような、ごく自然な杉並木街道に見えるようになりました。自然に見える杉並木の状態は、恐らく旧街道に近い状態に復元されているためではないかと思われ、街道景観の復元の観点からも望ましい工法であると考えられます。 |
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![]() 写真十 掘り下げられた路盤 |
![]() 写真十一 舗装と側溝の破砕・除去 |
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![]() 写真十二 ポカラの敷設 |
![]() 写真十三 すりつけ部の小型ポカラ |
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![]() 写真十四 ポカラ内外への客土充填 |
![]() 写真十五 土側溝と車止め |
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六、施工客土中への新根発生状況 樹勢回復事業の短期的な効果を見るために、初年度施工地におきまして、一生長期経過後及び二生長期経過後に、並木杉からの発根伸長状況を簡易に調査しました。 改良土壌で盛客土されている箇所の土壌表面をできるだけ細根に傷を付けないように注意しながら丁寧に掘り上げ、新たな細根が伸長しているかどうかを観察しました。 一生長期経過後の観察では、並木杉のうち樹幹の根元付近が健全に生育しているものについては、例えば写真十六に示すとおり、新たな細根が元気良く伸長しているのが観察されました。しかし、根元が腐朽や露出・乾燥等により枯死していた部分については、当然のことではありますが、発根は観察されませんでした。 二生長期経過後に同一箇所を観察したのが写真十七です。前年に根の生育が良好であったところでは、細根の量が著しく増加していました。また、前年に発生した根はさらに伸長し、長いものでは一メートル以上の長さとなり、太さも直径四〜五ミリメートルのものもありました。 観察された細根の伸長状況から見ますと、改良土壌の発根促進効果及び土壌改良効果は、非常に良好と考えられます。今後、樹勢の回復に少なからず寄与できるものと期待されます。 |
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![]() 写真十六 客土1年後の発根状況 |
![]() 写真十七 客土2年後の発根伸長 |
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七、おわりに これまで述べましたことは、「栃木県林業センター研究報告第一八号」(二〇〇三年三月)にまとめたものを縮述したものです。図表や引用文献等は省略していますので、詳しくは原著を参考とされますようにお願いいたします。 ここで、今回の新工法施工に関しまして、改善したい点を一つ述べておきたいと思います。 樹木は不健全な根であっても最低限必要な根の量があれば、その根を使って生活しようとするため、新たな根の発生は抑制され、不良根の悪影響は長期間にわたります。不良な根を切り詰めて根が不足すると、樹木の活力が十分ある場合には新たに健全な根を発達させます。新根再生時には多くのエネルギーを消費しますが、その後の回復は著しいものとなります。 日光杉並木での新工法で中空ブロックを用いましたが、杉並木が文化財であるため根を切ってはならぬということで、すりつけ部分には小型のポカラを用いました。しかし、小型のポカラは空隙率も高さも低いため、根の生育領域が余り取れません。一方、現在の道路下にある根は不健全な根であるため、切らずに残しても樹勢回復にはほとんど役に立ちません。(むしろエネルギーを消費してマイナス効果とさえ思われます。)杉の樹勢回復を目的とするのであれば、道路下の不健全な根を切ってでも、新たな根の生育領域を十分確保出来るように百二十センチメートル角のポカラを使用することが望ましいと考えられます。文化財保護の観点からも再検討されるよう望みたいものです。 ところで、一般に健全な樹木の生育には、樹体の大きさに見合った枝葉(光合成等)と根系(養水分吸収・樹体支持等)の発達が必要であり、そのためには良好な条件の地上及び地中空間が十分必要となります。樹勢衰退木では根系の環境が劣悪である場合が多いため、必要とする良好な地中空間を確保するために、土壌改良を行うことになります。 根の健全な発達のためには、土壌中の適度な通気性・保水性と適度な乾湿の繰り返しが必要となります。常に湿った状態にあると、根は楽に水分を吸収できるため必要以上に発達せず、根毛も退化します。例えば、表土のみに軽く水まきを続けますと、表土のみに根系が発達して深部まで発達しません。そこで乾燥にあうと表層根が枯死して、深部に根が少ないため乾燥の被害を受けやすくなります。 根の一部分に一時的に肥料を与えますと、その部分の根は著しく発達して吸収し、明緑色の新芽が出て元気になったように見えますが、その組織は軟弱な肥大した組織で、施肥時期が遅いと組織が成熟する余裕がないため、寒さの害を受けやすくなります。施肥部の発達した根系は肥料切れにより枯損し、外の根の発達は抑制されているため樹体全体のバランスを著しく崩し、いろいろな被害を受けやすくなります。 菌根菌等の共生菌が樹勢回復にもよいといわれますが、人工土壌や加熱等の殺菌をした土壌などでは有用な菌がほとんどいないため、効果が表れるかもしれません。しかし、これまで樹木が健全に長年月生育してきた土壌では、すでに菌根菌等の有用菌が多様な生態系を形成しているため、ほとんど効果は表れないでしょう。 老齢木等衰弱木の樹勢回復を考える場合、過度な水分や養分等は害になる場合もあるため、樹木の健全な生育に必要な事項を、基本に立ち返って検討することが重要なことです。最近の園芸等の資材の中には、派手な効能の宣伝やデモンストレーションが見受けられます。小さな植木や苗木と老大木とでは樹木の反応も異なる点が多いため、それらに惑わされて短期的な葉色の変化や細根の伸長のみに一喜一憂するのではなく、寿命の長い巨大な樹木に合わせて、長期的に全身的な樹勢回復を念頭に考えなければなりません。 今回の新たな樹勢回復工法も、これまでの土壌改良をより広範に実施する方法にすぎません。しかし、老大木に対する樹勢回復に当たりましては、長期的視野に立った方法こそが重要であり、最終的な効果に結びつくものと思われます。 今回は並木の内側の対策について実施されたもので、これまでの対策と比べれば並木杉の衰弱の進行を遅らせる効果は十分あると考えられます。しかし、並木内だけの対策では限界があり、これだけで樹勢が著しく回復するほどの効果は期待できないと思われます。杉並木の樹勢回復を図るためには、並木の内側はもちろんですが、同様に外側につきましても、地下部の根系及び地上部の枝葉が伸長できる生育空間を十分に確保することが重要であり、今後の対策として強力に取り組んでいく必要があるでしょう。 注:原本はモノクロ印刷です。 |
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