(公立林業試験研究機関研究成果選集 No.3,pp.5-6,2006,森林総合研究所)
公立林業試験研究機関研究成果選集 No.3 (2006.3)
  
3 中空ブロックによる日光杉並木の樹勢回復工法
 
栃木県林業センター   野 澤 彰 夫
 
研究の背景・ねらい
 日光杉並木は、生育環境の悪化等により本数が年々減少しており、樹勢の衰退も進行しています。道路敷確保のため根を切断して地面を掘り下げ、根系生育領域を狭められた杉並木(写真1)内において、道路機能を維持しながら根系領域を最大限に確保することを目的として、樹勢回復のための工法について検討しました。

成   果
 道路機能と根系生育領域の拡大を両立させる方法として、例えば、道路を橋梁構造にして、道路下に根の張る領域を確保し、道路機能との両立を図る方法があります。しかし、PC杭工法による橋梁の施工を検討してみると、杭打機を含めた作業スペースの確保が困難であり、単価も高く、施工性と経済性の両面から実施が困難です。
 そこで、種々検討した結果、路床の支持体として中空ブロック既製品(商品名:ポカラ)を利用することにより、施工性・経済性とも改善され、支持強度・根系生育領域の確保とも十分な性能を得られることが分かりました。本工法の横断概念図は図1のとおりです。ここで使用する中空ブロックは、一辺が1.2mの立方体のコンクリートを三方から直径95cmの円柱でくり抜いた形状をしています。樹勢回復のためには、吸収根の生育領域として深さ1m程度が確保されればほぼ十分と考えられます。
 実際の施工手順は次のとおりです。掘り下げられた路盤の舗装と側溝を破砕・除去(写真2)し、砂基礎の上にポカラを敷設(写真3)し、その上にコンクリート有孔床版を乗せ、ポカラ内外に改良土壌を充填(写真4)します。改良土壌の配合内訳は、完熟牛糞堆肥(県内の塩野谷農協の製品;スーパーコン・グリーン)10%(体積比)、杉皮土壌改良材(今市木材開発(協)及び粟野町森組の製品;クリプトモス)10%、粒状木炭(県内産)5%、黒ボク土(夾雑物・病原菌の少ない地場の休耕畑土)75%とします。床版の上には砕石敷砂利をして、表層を透水性舗装(写真5)とします。
 杉並木内の道路を車道とするために掘り下げられた部分を、本工法の施工により盛土・復元し、江戸期の姿に近づけられるため、昔の街道景観の復元の観点からも、本工法は望ましいものと考えられます。
 日光杉並木において、本工法による樹勢回復事業が実施されましたが、掘り下げられていた旧道敷(写真1)が、事業施工後(写真5)には自然な杉並木街道に見えるようになりました。さらに、施工1年後には、客土中に並木杉の発根伸長が見られ、平成16年には4面に透明プラスチック板を設置した観察用ポカラの一部で、ポカラ周囲に根の伸長が確認できる(写真6)ようになりました。

成果の活用
 中空ブロック工法による樹勢回復事業は、平成10年度〜12年度に、日光杉並木保護財団により、今市市瀬川地区において、総延長で255mが施工されました。今後も、本工法による樹勢回復事業が計画されていますが、杉並木の保護のため実施区域の拡大が望まれます。
 また、本工法は杉並木に隣接した今市市の土地区画整理事業でも用いられましたが、種々の場面で応用可能な工法なので、樹勢回復等の手法として広く活用されることが期待されます。

(注)*PC杭工法:PCはprecast concreteの略で、工場生産のコンクリート製規格品のこと。ここでは、PC杭を打ち込んでこれを橋脚とし、その上にコンクリート製の橋板を渡して橋とする工法。
 

図1 中空ブロック(ポカラ)工法横断概念図
 

写真1 掘り下げられた路盤
 

写真2 舗装と側溝の破砕・除去
 

写真3 ポカラの敷設
 

写真4 ポカラ内外への客土充填
 

写真5 透水性舗装と車止め
 

写真6 ポカラ周囲に伸長した根
 
[問い合わせ先:栃木県林業センター 研究部 TEL.028-669-2211]

 注:原本の写真もカラー印刷です。

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