(森林科学 No.47,pp.82-83,2006,日本森林学会)
 
日光杉並木の樹勢衰退と公園等植樹木衰退の共通点
 
 野 澤 彰 夫 (関東支部 栃木県林業センター)
 
 日光杉並木は、今なお13,000本近くが現存しており、国の特別史跡と特別天然記念物に二重に指定され、世界で最も長い並木として知られています。また、江戸時代に植栽されたものであり、言わば人工林なのです。最も古いものは樹齢約380年生で、大きなものは太さ2m以上、高さ40m以上もある巨木です。
 江戸時代には非常に大切にされたと思われますが、明治期以降、交通や産業の近代化のあおりで、全体的に衰弱してきており、近年では、1年に数十本から百本近くずつ数が減っています。衰弱の原因はいろいろありますが、最も大きな原因は、巨大な樹体に対して枝葉や根を張る空間が非常に狭いことです。特に、並木内国道の大幅な改修や用水路作設によって根が切断され、根の張る地中空間は著しく狭められています。現在、栃木県では、これらの弱った樹勢を回復させるため、樹勢回復事業を行っています。
 スギが根を張るためには柔らかい土が必要ですが、踏み固められたり、車道になったりしていては、健全な根を張ることが出来ません。根の張る土壌空間を最大限に確保するためには、並木内の道路を掘り上げて、良質土を客土し、車両などの通行を禁止するのが最も良いのです。しかし、色々な事情により、それを実行するのは現実的には不可能です。
 そこで、土壌空間を少しでも増やすため、並木内の道路の端の削られた部分に木の柵を作り、良質の客土(木柵客土工法)をしました。また、さらに進んだ方法として、道路を掘り上げて、中が空洞のコンクリートブロック(商品名:ポカラ)を置き(写真−1)、その中と周囲に客土し、その上に車道を作る中空コンクリートブロック工法(ポカラ工法)も一部で実施しました。
 その結果、これらの客土中には並木杉の細根が元気よく伸長しているのが観察されています。
 話は変わりますが、近ごろ、公園や植樹地で植栽した樹木が、衰弱したり枯損したりするという相談が何件もありました。今回調査した場所は、いずれも一見するときれいに整備され、条件もいいところで、なぜ衰弱したり枯損したりするのだろうと不思議に見えます。地上部を見ると、大きな原因となる病害虫や傷なども、特に見当たらないのです。
 そこで、地下部、つまり地面の中を調べると、地表から20〜30cmの深さまでは柔らかい土壌なのですが、その下が急にしかもひどく硬いのです。いずれの場所も公園等を造成する時に、出来形をきれいにするために、地形を整形して固めた上で、表面にだけよい土壌を客土していたのです。(河川の氾濫原で、客土下が玉石ごろごろの所もありました。)
 苗木を植栽しても、樹木は年を重ねるごとに成長するため、根の張るスペースもどんどん拡大します。しかし、造成地で柔らかい土壌が制限されている場合には、ある時点から根の拡大が出来なくなります。植木鉢に植えられた状態と似ています。地上部はどんどん成長しますが、根は制限されるため、十年もすると、特に乾燥した年には上下のバランスが取れなくなって、梢端枯れや枝枯れを起こし、ひどい場合には枯損します。また、乾燥に弱い樹種では、大きくなる前に破綻をきたします。
 造成地等に樹木を植える場合には、将来の最終的な大きさを考えて、客土の深さや広さを検討して造成しなければなりませんが、実際にはそこまで検討されていない場合がほとんどです。造成後も人工的な環境では、堆肥や腐葉土を施すなどの、土壌環境保全のためのメンテナンスも必要です。
 日光杉並木と公園等の植樹木は、樹齢こそ全く違いますが、衰退している原因を調べますと、根の張る土壌空間が不足していて、生存の基本にかかわる環境条件が悪いというところで、共通点を持っていたのでした。
 注:原本はモノクロ印刷です。     
写真−1 ポカラの敷設
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