(2006年11月応用環境生物学系3学会連携大会研究発表要旨集(樹木医学会第11回大会研究発表要旨集),
                       p.75,2006,日本家屋害虫学会・日本環境動物昆虫学会・樹木医学会)

                                 
  キシタエダシャクによるレンゲツツジの枝枯れ被害
 
野澤彰夫(栃木県林業センター)   
 
  栃木県矢板市の八方ヶ原大間々地区(標高約1,200m)はレンゲツツジの名所であるが、2004年の開花時期には、レンゲツツジの一斉林で花がほとんど見られないだけでなく、葉もほとんどなくなって、集団的に枯損するのではないかと心配された。
  6月11日に現地調査をしたところ、花も葉もほとんどない株が面的に広がっており、以前のカミキリムシによる被害で枯損した株が点々とあるだけの状況とは異なっていた。食葉性のハムシ科の成虫やハマキガ・シャクガ等の鱗翅目幼虫が数種類みられたが、そのうちキシタエダシャクの幼虫が特別多数見られた。キシタエダシャク幼虫の中には、天敵微生物による病気に感染して蕩けたように死亡しているものが多かった。外に土壌障害や病害等の激しい被害の原因となるものは見られなかった。遅霜の影響も疑われたが、林縁の落葉広葉樹や常緑針葉樹の高木枝下にあるレンゲツツジにも枝枯被害が見られることなどから、今回の激しい枝枯被害はキシタエダシャクの異常発生による食害が主因と考えられた。
  その後、2005・2006年と、八方ヶ原及び那須町湯本八幡地区(標高1,000m)で観察した。両地区ともキシタエダシャクはレンゲツツジ及びヤマツツジを食害していた。キシタエダシャクの幼虫は、発生時期に若干のばらつきはあるが、レンゲツツジの冬芽が膨らみ始める前から孵化しているものがあり、花芽・葉芽が展開するのを待っていて、展開しかかった段階から食害を始めるため、少量の食害でも新芽がきれいに食べ尽くされてしまいやすい。したがって、枝枯を引き起こしやすい。一方、ヤマツツジも食害されるが、キシタエダシャク幼虫の発生時期には新芽が十分展開しており、食べ尽くされにくいためダメージが小さい。八方ヶ原ではレンゲツツジがほとんどで、ヤマツツジはわずかであるため、キシタエダシャクによる食害の影響を受けやすい。そのため、枝枯被害を引き起こしやすい。那須八幡ではヤマツツジがほとんどで、レンゲツツジはわずかであるため、キシタエダシャクによる食害の影響は小さく、枝枯被害も引き起こしにくい。したがって、八方ヶ原ではレンゲツツジの枝枯被害が発生しやすく、那須八幡では枝枯被害が発生しにくいという現象が起こるものと考えられた。
 
                                       
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