(第30回日本木材学会大会研究発表要旨集,p.228,1980,日本木材学会)

                                 
  DAP処理木粉およびセルロースの燃焼・熱分解によるシアン化水素の発生
 
北海道大学農学部  ○野澤彰夫・里中聖一   
 
[目的] 含窒素有機物が燃焼する際、HCNが発生するが、リン酸水素アンモニウム(DAP)処理セルロースの燃焼・熱分解時にもHCNが発生することが報告されている1)。本実験ではDAP処理木粉等を、種々の条件で燃焼・熱分解して発生するHCNを定量し、若干の考察をした。
[実験] 燃焼・熱分解は試料(30mg)を石英ボートに入れ、所定温度に保った石英管内で行なった。雰囲気は主にN2、Airおよび1/5Air(4/5N2)を150ml/minで流し、O2供給量を変えた。加熱温度は300〜900℃とし、加熱時間は反応が十分完了するように10〜30分間とした。試料はミズナラ木粉(20〜40mesh)、木粉と同程度にきざんだ濾紙(東洋濾紙No.2)、およびこれらにDAP水溶液を含浸させ風乾したものを用いた。生成ガスは2%NaOHに通してHCNを吸収させた。これをJIS K 0102-29に従って、蒸留操作の後、ピリジン−ピラゾロン法またはチオシアン酸第二水銀法で比色定量した。
[結果] DAP処理試料はいずれの場合にもHCNの発生が見られた。無処理木粉では多くの場合、微量ながら認められた。雰囲気の違いにより、温度変化に対する発生量にそれぞれ特徴がみられた。図1にDAP10%添加木粉の結果を示す。またこれから計算したDAPからHCNへのN成分の移行率を表1に示す。またAir中700℃以上では少量のNO発生が見られた。さらにCO発生量とHCN発生量に正の相関が示唆された。これらの結果から次のことがわかった。(1)N2ガス中では温度が高くなるほどHCN発生量は増加し、特に500℃を超えると増加した。(2)酸素が存在すると500〜600℃にHCN発生のピークがあり、600℃から700℃への間で発生量は急減した。(3)700℃以上では酸素が存在するとHCN発生量は著しく減少し、600℃以下では逆に酸素が少ないほど発生量は減少した。(4)高温(900℃)でしかも酸欠状態でのみ、DAP添加率の増加に従ってHCN発生量は増加したが、その他の条件では添加率10%を超えると、発生量は殆んど増加しなかった。(5)HCNの発生反応にはセルロースもリグニン、へミセルロース等も同様な働きをすると思われる。(6)O2存在下、700℃以上ではNO、N2の発生が認められ、HCNの酸化分解が考えられる。またCOはHCNの生成を促進すると思われる。
  以上のようにDAP処理試料からHCNは発生するが、その量は含窒素有機物からの発生量1)と比較すると数分の一から数十分の一程度である。さらに条件が揃わなければ発生量はわずかであり、防火効果を考え合わせると、有毒ガスの面からも、DAPは有用な防火薬剤の一つであると言える。


図1.DAP10%添加木粉からのHCN発生量
表1.N成分の移行率(%)
Temp. of
heating
Atmosphere
N2 1/5Air Air
 900(℃)   26.8   13.8   5.6
 700   13.3   4.4   4.2
 500   2.3   7.8   10.6
 300   0.2   0.5   0.7

1).守川時生:日本火災学会論文集,22,1,(1972);火災,23,235,(1973)
 
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